時代に追い抜かれた「リアル」
そんな「リアル」な巨神ゴーグの世界にも、実際に1998年になってみると現実離れしてしまった部分もいくつかある。わかりやすい所では、1998年になってもソビエト連邦が存在する事。しかし、これでスタッフを責めるのは酷というものであろう。実際、1990年にソビエト連邦が崩壊するなんて誰も(それこそ政治や経済の専門家でさえ)思いつきもしなかったのである。「2001年宇宙の旅」の劇中、とうの昔に倒産したパンナムが宇宙船を飛ばしているのと同様、これは事故の様なものである。
その次に気がつきやすいのは、ラスベガスに向かうバスの中で船長が飲んでいるビールの缶が、ステイオンタブではなくプルタブだという所。「そういえばあのころはまだプルタブだったよね」と思ってしまうが、残念ながらそうではない。すでに83年頃にはアメリカではほとんどの缶飲料がステイオンタブになっていたはずである(当時、すでに輸入物のビールやコーラはステイオンタブであったと記憶している)。この作品にしては珍しい凡ミスといえるかもしれない。
しかし、意外なところで現実はゴーグの世界を確実に追い抜いている。それは、オウストラルへ上陸する前の昇陽丸から海中に投じられたレーダー撹乱装置である。劇中では、船長と悠宇が二人がかりでかなり重そうに持ち上げていた。レイディ・リンクス率いるクーガーコネクションとの銃撃戦中、キャンピングカーを運転しながら片手で(!)無反動砲(いわゆるバズーカ)を拾い上げたあの船長ですら悠宇の手を借りなければいけなかったことから、この装置は劇中では非常に重いものという設定になっていると考えられる。ところが、現在米海軍で使用されている同種のレーダー撹乱装置(ちょうど釣りで使うウキの化け物のような形をしている)は、重さがたったの15kgしかないのである。もはやこれは、現実が作品世界を完全に追い抜いたと言うしかないであろう。
無反動砲といえば、船長が拾う前にレイディがバスの車内から撃つシーンがあったが、あれはいただけない。無反動砲は、弾を発射するときに後方に高温の爆風を吹き出す構造になっていて、その爆風で発射時の反動を軽減するようになっている(だから『無反動』なのだが)。だから、バスの車内のような密閉空間で無反動砲を発射しようものなら、車内は阿鼻叫喚の灼熱地獄と化すのがオチである。演出(見た目のカッコよさ)を考えればあれでいいのかもしれないが、「せっかく他のシーンでリアルな描写をしているのに、もったいない」と、ついつい思ってしまう。
余談ついでにもう一つ。「光る島」でオウストラルに降り注いできたICBM(大陸間弾道ミサイル)だが、目標に到達(ようは爆発)する段階まで打ち上げたまんまの形であったが、これも実際にはかなりおかしい。
以前、ロシアの原子力潜水艦から人工衛星が打ち上げられた事がニュースになった事や、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)のミサイル疑惑も結局アメリカが人工衛星の打ち上げだったとした事などからもわかるように、ICBMやIRBM(長距離弾道ミサイル)は、基本的に人工衛星を打ち上げるロケットと同じような構造をしている。先っぽについつるのが地球を回って当分落ちてこない人工衛星か、宇宙に出たと思う間もなく相手の頭上に降り注ぐ核弾頭かという程度の差しかない。であるから、ミサイルの大部分は打ち上げられた後、ロケットよろしく切り離され、実際に目標に到達するのは先っぽの弾頭の部分だけである。それを考えると、あの核ミサイルの描写は「?」である。
だが、ミサイルの描写をリアルにやるとしたら、折角の物語のクライマックスが絵的にしまらない物になったであろうことは用意に想像がつく。人工衛星だか小粒の隕石だかが何十個も空から降ってくるだけというのは、さすがに間抜けすぎるであろう。また、ミサイルの胴体に大きく「CCCP」と書きたかった製作者側の意図(?)も見え隠れするこの場面では、あえてロケットの形のまま描いたのはいわゆる「演出のウソ」の範疇に入るものであろう。
初出
神のいる島 I'll Beleive
1998.08.15 発行
2000.11.16
Web転載にあたり全面改稿
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