結晶 (1/5)



  結晶


 その日、私は家まで歩いて帰ることにした。学生時代か
らのくせで、一、二ヶ月に一度、そう言う気分になること
がある。家までの距離はそう遠くはないが、確実に次の日
に疲れが残る。そう、わかっていても、歩かずにはいられ
なくなるのだ。
 いまさら、この世界から逃げ出そうとしているのか。
 そんなことを考えながら、見なれた景色の中へと足を進
めた。
 いつもバスの中から見ている町並みだし、歩いて帰るの
も今日が初めてと言うわけではない。何も変わるところの
ない街を、ただただ歩いていった。
 そんなぐあいで家までの道のりを半分ほど過ぎたところ
で、私は一軒の骨董品屋で足を止めた。いつ頃からそこに
あるのか解らないほど古い建物に、ひっそりと店を構えて
いる。前々から、心のどこかにひっかかっていたのだが、
それだけの店であった。
 しかし、今日はなぜか店の前から立ち去ることができな
い。
「今日は、そういう日なんだろう。」
 そう思った私は、店の中へと入っていった。

 まだ、夜になるには時間があったが、店の中は薄暗く、
私は一瞬にして日が落ちたかのような錯覚を覚えた。
 表には骨董品屋の看板はかかってはいたが、なにか大層
な年代物がおいてあると言うわけでもなく、どちらかと言
うと古道具屋というべき店であった。


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