bo-bo-記 rec.0102 01.02.18



映画感想文『初恋のきた道』」
  


 アバのCDを聞いていた娘に突然、ねえ初恋っていつの恋のことをいうの。と、聞かれた。初めて親以外の異性を好きになったときが初恋じゃないかなぁ。そう答えた。娘はフ〜ンと答え、またCDの方に戻っていった。そういえば僕にとって初恋っていつだろう。いま娘に言ったのが初恋だとすると。僕にとっての初恋の人は親父が勤めていた会社で事務の仕事をしていたテルちゃんという女の人だろう。そのころ僕たち一家は親父の勤める会社の敷地内に住んでいて、社員の人達といつも顔を会わせて生活していた。テルちゃんはその中でも、丸顔でいつも明るく笑顔の可愛いお姉さんだった。まだ幼稚園に入る前の僕はよくテルちゃんに連れられて駅前の銀行まで一緒に手をつないで行ったものだった。母親に叱られて絶望に浸っている僕を助けてくれるのもいつもテルちゃんだった。母親に嫌われても僕にはテルちゃんがいる。僕にとって、あの頃のテルちゃんと過ごした風景は、まるで中勘助の「銀の匙」の世界だった。多分自分にとって一番幸せを感じた時代だったのではなかろうか。それ以来、僕は明るくて笑顔の可愛い女の子が好きになった。小学校四年生のとき好きになった担任の白木先生も明るい人だった。五年生のとき好きになった同級生の田中さんもそうだった。でも、なにせ幼いゆえ相手には好きだと告げることもなく月日は流れた。女の子を女の人として接するようになった頃。ふと、思った。いくら初めは明るくて笑顔の可愛い女の人を好きになってつきあっても、みんなおつきあいを重ねるうちに、どこか不安定でワケがありそうな人に思えて来る。そう、大人はみんな、いろいろ抱えて生きているのだ。テルちゃんもキットそのいろいろを抱えながらも明るく笑顔をふるまっていたのだ。子供のころの僕はそれがみえなかっただけなのだ。悲しいかな・・・・。

 「初恋のきた道」という映画を観た。 いきなりモノクロの映像でスタート。中国のとある場所で一人の老人が死んだ。その老人は田舎の学校の先生である。その先生の年老いた奥さんが遺体を村まで歩いて運びたいと息子と村長にいう。村長は人手もお金もものすごくかかるから駄 目だという。でも、年老いた奥さんは首をたてにふらない。どうしても歩いて村まで先生を運びたい。自分たちが出会い、暮らしてきたあの村へ。

時代が変わって、場所は中国の田舎の村。 ここからはカラーです。 その村に村始まって以来初めて学校の先生がやってくるという。村の男達は校舎を作るための木材を集め、村の娘たちはどんな先生が来るのか楽しみにしている。まるで村中でお祭りのしたくをしているような楽しさがある。そんな素朴な村の風景がとても美しい。ある日のこと、先生が村にやって来た。 村中が大騒ぎになる。主人公の村娘は人垣をかき分け、ひとめでいいから先生の姿を見ようとする。いた!なんとも中国のかた田舎の風がよく似合いそうな好青年だ!!この瞬間からこの娘は先生に恋をする。 娘はそれまで着ていた赤い生地の綿入れをしまい。新しいピンクの綿入れを羽織るようになる。次の日から、村男達は先生とともに校舎を作り始める。村娘たちは男衆のお弁当を作る。誰がどのお弁当を手にするかはわからない。それでも先生に恋した娘は思いを込めてお弁当を作る。娘の作るお弁当の茶碗には藍色の可愛い花の模様がついている。恋する先生が手にしてくれることを願って・・・。

その後、映画はこう言ったいじましい娘の想いを多少過剰気味に描いていく。ちょっとやりすぎかな、と思うところもなきにしもあらず。でも、いいのだ。愛だの恋だのというモノは、当事者からすると“生きる”の“死ぬ ”のということでも、傍から見るとひじょうにバカバカしいことだったりするのだから。それが恋なのだから。

娘は先生の本を朗読する声が大好きだ。その声を聞けるだけで幸せになれる。村には井戸が二つある。娘は先生が来た日から、家からは遠いというのに学校の近くにある井戸を使うようになる。少しでも先生の近くにいたいのだ。娘は先生にユックリだがすこしづつ近づいていく。昼はお弁当ですませるが、そのほかの先生の食事はどうするのか。村中の家でかわりばんこに日変わりで招待することになっているのだ。ついに娘の家にも先生が食事にやってくる日が来た。目の見えない母親と二人ぐらしの娘は嬉しくてどうかなっちゃいそうなくらいだ。そんな娘を母親は心配するが、娘は恋する先生のために腕によりをかけて料理を作る。

チョット、タンマ。ここでちょっと疑問が生じた。“腕によりをかける”とはどんな意味なんだろう。なにげなく使っていたが意味がぜんぜんわからん。“より”ってなんだ。あっ、そのまえに、“タンマ”ってなんだ。・・・・・・・まっ、いいか。

話を戻そう。 この娘の家への訪問で先生は娘の恋心を知る。先生もまんざらではない。うらやましい。先生は娘に、昼飯には餃子を作ってほしい、という。さっそくよりいっそう腕によりをかけて餃子を作り始める娘。

おお、またもや“腕によりだ”。知らんぷり知らんぷり。

そこへ誰かが先生を呼びに来る。先生は急に町まで行かなければならなくなる。娘は言う「餃子は?」。先生は答える「後できっと食べに来るよ」。娘を悲しませたくないばかりにウソをつく先生。そのウソを信じ餃子を作って待つ娘。いくら待ってもやって来ない先生。娘は藍色の花模様の茶碗に餃子を入れ先生を追いかける。彼方に見える馬車の後ろにゆられる先生の姿。娘は追いかける。追いつかないとわかっていても追いかける。餃子を持って追いかける。でも、やっぱり追いつかない。石ころにつまずきすっころぶ。茶碗は転がり、餃子も転がり、娘も転がる。ガシャン。ついに茶碗が割れた。

僕はすでにもうダラダラと涙を流している。たかが餃子で泣くオラはホントにアホだ。でも、もっとアホなのは、前の座席に坐っていたオバタリアン軍団だ。茶碗が割れた瞬間、あーあー(もったいない)、とため息を漏らす。ウルサイ人達だ。

娘はその日から村境の道で先生の帰りを来る日も来る日も待ち続けることにする。そのうえ先生がいつ帰って来てもいいように、学校もキレイに掃除して・・・・。村人たちの噂によると先生は思想的な問題で当局に尋問されているらしい。目の見えない母親はそんな娘を不憫に思い。割れた茶碗を職人に頼んで修理する。買った方が安く済むのに・・・おヨヨヨ(←これは中島の泣き崩れる声)。そんな中、娘はある雪の降る日、とうとう熱を出し倒れてしまう。生死の境を彷徨う娘に母親は村人たちに言う。「一日でいいから先生をここに連れて来てけろ」

娘は死んだように眠り続ける。 その娘の耳に聞こえて来るのは。なつかしいあの声。そう、あの先生の朗読の声だ。娘は飛び起き、学校に走る。そこにはあの先生の姿が。

もう、この頃には涙腺が破壊されており何が起こっても泣いてしまう中島でした。

話は再び現代へ、映像もカラーからモノクロへ戻ります。先生の息子は村長に言います、母の言うとおりに父の遺体を村まで歩いて運びたい、ついてはお金はかかる分全て支払うから人手を集めてほしいと。村長は納得し、雪のなか村まで柩を担ぎながらの行進が始まります。村まで帰るなか、いろんなところから先生の死を聞きつけた昔の教え子達が入れ代わり立ち代わりやって来ては、代わる代わる柩を担ぎます。そして誰ひとり賃金を受け取るものはいませんでした。

ううううううっ・・・・。(←中島、泣き過ぎています)

年老いた娘は、息子や先生の教え子達と一緒に遺体を運び終えてとても幸せそうでした。そして、ふと寂しさが襲って来るのでした。もうあの人はいない。あの人の朗読する声はもう二度と聞くことはないのです。でも、しかたありません。人生なのですから、起きること全て抱えて生きて行くしかないのです。いつしか、年老いた娘は眠りにつきました。 朝、娘がまどろんでいると何処からか朗読の声が聞こえてきました。娘は飛び起き声のする方へ、そう、学校に向かって走りだしました。あの日、人込みをかき分けて見た先生の姿とダブって、教壇に立って大きな声で本を読んでいたのは、なんと自分の息子でした。あの人が、息子には教師の後を継いでほしい、と言っていた願いを息子が一日だけ叶えてくれたのでした。

あの人を好きになり、あの人の息子を産み、あの人の最後をあの人の教え子と一緒に歩き。 イイ人生です。年老いた老婆はそう言っているようでした。
あの頃の娘はなにひとつ変わることなく最後まであの先生を愛したのでした。

 映画館を出ると外はいい天気でした。一緒に観に行った娘たちが言います。

次女「お父さん泣くの早すぎるよ」
長女「何処で泣いたの」
父親「餃子」
長女「早いよ。私なんか行進からだよ」
次女「遅いよ。普通は馬車からでしょう」
父親「なんだ、それは。そんなことに普通もくそもあるものか」
次女「あー。もういいから。餃子食べに行こうよ」
長女「そうね、おなか空いたものね」

そう言って、娘たちの足は渋谷の餃子館へ向かいました。冬の空は高くそして藍い。ふとテルちゃんに会いにいってみようかとおもいました。今では札幌に住むテルちゃんももうじき還暦。オラも歳をとったものです。
先日届いたテルちゃんの手紙には、

“あの頃のあなたは歩くのが嫌になると駄々をこねて道路の上で寝転がっていましたね。でもほおっておいたらついて来たけどね、可愛かった”とありました。
オラにも可愛かった時期があったのだと、なんだか嬉しくなり知らないうちに涙をこぼしていました。

テルちゃんとの思い出は、オラにとっては初恋のようなモノでした。

 

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