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この世の中に『ニュー・クリアー赤英』という名前の人物が居ることをみなさんご存じだろうか。十年くらい前、「T.B.プラネット」という劇団があった。イカ天バンド(=そのむかし、あるテレビ番組の中に“イカしたバンド天国”というコーナーがあり、そこから何組かのアマチュアバンドがプロデビューしていった。)「スイマーズ」出身の和久田理人、マンガ家(「バカドリル」などの)のタナカカツキ、武蔵野人(=武蔵野をこよなく愛し、武蔵野以外の土地には一生涯住むことはない人種)の秋山想らが結集した劇団で、サブカルの新生としていっときもてはやされた。その劇団に小柄で短髪、黒縁眼鏡をかけた地味な青年がいた。彼の芸名を、まさか本名ではないと思うので敢えて芸名と言わせていただくが、『ニュー・クリアー赤英』といった。まるで格安で作ったタイ製の文房具のような名前だ。一度聞いたら二度と忘れることは決してならない、そんな脅迫めいた言葉が聞こえて来そうな名前だ。『ニュー・クリアー赤英』は少しヘンな人である。であるといっても知り合いではないので、あくまでも想像の上でのことだが。実は彼、舞台での存在感はハッキリ言って薄い、というよりナイ。これは芸人である以上このうえなく欠点である。そのうえ声に印象がない、ほとんどと言っていいほどナイ。その地味な立ち姿は地味さゆえになんとか記憶にとまることはある。しかし声は違う、まるで記憶に残らない。
彼がどんな声質でどのくらいの声量をしていたのか記憶のかけらもない。
なにひとつ人に覚えてもらえない人、こんなひとは表現者として失格ではないのか。けれど彼はそうではなかった。
名前が凄かった。
『ニュー・クリアー赤英』。
十年たった今でも覚えている。
『ニュー・クリアー赤英』。
その地味な風体故、名前だけでも派手にして見たらと誰かがつけてくれたのか。それとも自らの欠点に気が付き自分でつけたのかそれはわからない。それでも『ニュー・クリアー赤英』。
きっと恋人と呼べる人なんかいないのだろう。だってデートをして腕を組んでも組んだことさえ記憶に残らない。デート中なにを喋っていたのかもわからない。何もかもわからない。
でも一つだけソコにはキチンと跡を残して行く。名前という足跡を・・・・。
『ニュー・クリアー赤英』。
恋人はいないがオメ友なら居そうだゾ。
『ニュー・クリアー赤英』。
エッチのときはどうするのだろう。
上に乗っかった女人は彼のことをどう呼ぶのだろう。
《ニューちゃん!イヤイヤ!》。
それとも《ニュー・クリアーさん!モットモット!!》。
思い切って呼び捨てで《早く!イッてちょうだい!!ニュー・クリアー赤英!!!》。
いったいどれだろう。
教えてほしいゾ『ニュー・クリアー赤英』。
ああ、なんだか『ニュー・クリアー赤英』と友達になりたくなってきた。そして人に言いたい、新しい友達が出来たんだ、名前を『ニュー・クリアー赤英』って言ってネ、名前は凄いけど地味な奴なんだ、と。
それから電話もして見よう。
もしもし『ニュー・クリアー赤英』ですか?
いま何してるの?
そう尋ねて見たい。
なんでもいいから『ニュー・クリアー赤英』と言う名を口にしていたい。どうやらこんなコトを書いたり考えたりしているオラはちょっとヤバイ感じがする。頭が何かに踏み潰されていくようだ。
グニャリ。
だから必死になって違うことを考えようとしている。それでも『ニュー・クリアー赤英』。
人はときとして“どうでもいいこと”を必死になって考えてしまうことがある。その“どうでもいいこと”は人によってさまざまである。現実からも空想からも逃げるために日夜考え続ける“どうでもいいこと”。そして、その“どうでもいいこと”が頭の中で無為目に膨らみ過ぎて、オラを悩ます。
それこそが『ニュー・クリアー赤英』。
彼はいま何処にいて、何を思うのか。
どうやら僕は“『ニュー・クリアー赤英』地獄”にハマッてしまったようだ。
ねえ、助けてよ、『ニュー・クリアー赤英』。
ねえ、返事をしておくれ、『ニュー・クリアー赤英』。
ねえ、笑って、『ニュー・クリアー赤英』。
どうしよう。
僕はもう、『ニュー・クリアー赤英』ナシでは生きてはいけない。
あなたも『ニュー・クリアー赤英』ウィルスには気をつけて・・・・・・・。
next rec.
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