bo-bo-記 rec.0115 01.04.19



新・中島家の一日」
  


 この四月からわが家には二人の高校生がデビューした。一浪をして都立S高校に入学した長女と、普通 に都立T高校に入学した次女である。次女にとっては二年ぶりの東京生活。中島家は合計四人になり女三人に囲まれた恐ろしい生活が始まった。朝六時半、長女と次女が起きお弁当やら学校へ行くしたくを始める。七時、僕が起き。子供達のしたくを手伝う。

 次女「お父さん、お弁当箱どこ?」

  父「台所の一番上の棚」

 次女「届かないよ」

  父「わかった、父がとりましょう」

いちばん取りやすいところにミフィー(子供に人気のあるウサギのキャラクター)の弁当箱があった。

  父「これでいいか」

そう次女に聞くと、それまで姿見で制服のミニ具合をチェックしていた長女がものすごい勢いで、

 長女「それはダメ!それは使わないで!!」

その声に圧倒される僕と次女。 

 長女「そのミフィーのお弁当箱には思い出が一杯つまってるんだから使わないで!!!」

  父「わかったよ。わかったけどさぁ。そんなに目くじら立てて言うことか。たかだかお弁当箱だぞ。それぐらい妹に貸したってバチあたらねえだろ。ケチ!」

 長女「だって大事な思い出が・・・」

  父「そんなに大事だったなモノなら金庫に鍵かけてしまっとけ!それに大事なのは“思い出”であってモノは関係ないだろう。だってお弁当箱だぞ。クダラナイ!」

  次女「いいよいいよ。もうそのお弁当箱は二度と使わないから!!」

  父「そうだそうだ。お父さんも、もう絶対触らないぞ!!」

 次女「でもそんなに大事なモノだったら、私だったらこんな共用の場所には置かない。もし置いてもシールを貼っておくよ、“私物”って」

  父「“私物”もなにもこいつの勢いからすると“超”がつくな“超私物”だ」

 長女「(泣きながら)バカにしないでよ、私の思いでを!聞きもしないで!!」

 次女「聞きたくねえよ、別に」

  父「もうやめよう、クダラナイ」

 長女「聞きもしないで、クダラナイって言うのは許せない!」

 次女「いいよ、許さなくても」

  父「だいたい“思い出”なんていうものは、本人にとっては大事なものでも他人にとってはクダラナイことが多いんだよ」

 長女「私がこんなに苦しんでるのにー!」

  父「そんなの苦しんでるうちに入らないよ、世の中にはなぁ、お前以上に苦しんでる人は腐るほどいるんだ。お前のは睡眠不足でただお前の機嫌が悪いだけ。」

 次女「もうやめようよ、たかだかお弁当箱で、バカみたい」

  父「そうだやめよう。でもなー、そのケチは直した方がいいぞ。そのうち守銭奴って言われるゾ」

 長女「(震えながら)だから、“思い出”を聞いてから言ってよ」

 次女「だから、聞きたくないそんなもの」

ここまでくると、チョットは聞きたいぞ、と思いつつも、

  父「もう、おしまい」

とむりやり話を切る。
長女はこの日、美術の授業があるためたくさんの荷物を持ちながら泣きながら学校へ。でもまあ、ああは言っても僕は優しいお父さん。駅まで車で送ろうか、そういってみるが、いいです、と断られてしまった。おお、こわいこわい。長女が出てから三十分後、次女もでかける。
ホッとする間もなく、洗い物、掃除、お洗濯、主夫の仕事が目白押しだ。
おっと、その前に細君を起こさなくては。
寝室に入ると細君は既に起きていた。ねえ、朝からみんなで何騒いでいたの?僕は“お弁当箱事件”を話した。細君は、バカみたい、と笑った。よかった、今朝の細君はご機嫌だ。殴られることもないだろう、胸をなでおろす。そこに電話が鳴る。

  僕「もしもし」

 次女(もしもし、お父さん)

  僕「どうした?」

 次女(学校のロッカーのキーを忘れちゃったんだけど・・・)

  僕「今どこにいるの?」

 次女(世田谷代田の駅。途中下車したの・・・)

  僕「じゃあ、お前はそのまま学校に行きなさい。これから父はチャリで届けるから。校門で待ってなさい。」

父はチャリを飛ばします。四月の朝の道路は気持ちがいい。寒くもなく暑くもなく赤堤通 りを走ること二十分。娘と同時に学校に到着。早い。次女に鍵を渡し、ノンビリと帰ることに。あ、そういえば長女の通 う学校もここから遠くはないはず。馬事公園をぬけS高校の前にでる。携帯をとりだし長女にメールを送信。

《アサハ、イイスギマシタ、ゴメンナサイ。チチ》

校舎に一礼をし家に急ぐ。まだまだ今日の主夫の仕事が山積みだ。父は大変である。家に着くと細君がちょうど仕事にでかけるところ。

 細君「鍵、間に合ったの?」

  僕「ほとんど同着だったよ」

 細君「早いね。でも、疲れて寝込まないで下さいよ」

  僕「大丈夫だよ。」

 細君「いってきまーす」

  僕「そういえばゆうべ、お前、叫んでなかったか?」

 細君「やっぱり叫んでた?」

  僕「なんか恐い夢でも見たのか?」

 細君「小さいころからそうなんだけど、“夜きょう症”って言って昼間のストレスが夜でるみたい」

  僕「“夜きょう症”の“きょう”はどんな字なの」

 細君「たぶん“響”じゃないかな」

  僕「えっ!“響き”なんてそんなきれいな感じじゃなかったゾ!泉ピン子が角野卓三と交尾して初めてオーガズムを感じたときのような声だったゾ、恐ろしい」

 細君「ねえ、聞いたことあるの?あなた」

し、しまった。細君の機嫌に曇りが・・・・

  僕「えっ!」

 細君「聞いたことあんのかよ、ピン子と角野の交尾の声を!」

  僕「ないです。だけどきっと“響”じゃなくて“叫”か“凶”か“狂”だと思います」

   ああ、余計なことを・・・

 細君「うるさいわねー、いいじゃない、そんな細かいこと。ところで今日の食事当番はだれ?」

  僕「あなた様で御座います」

 細君「何が食べたい?」

  僕「たまにはウナギなんていかがでしょうか」

 細君「じゃあ、それだけは作らないでおきます」

細君がギラッと睨みつける。おお、こわいこわい。 

  細君「では、行ってきます」

  僕「いってらっしゃいませ」

深々と頭を下げ見送る私。ああ、男はつらいよ・・・・。なんていってる暇はない。お片付け、お掃除、お洗濯。ひとり女性が増えると片付けも掃除も洗濯もいつもより時間がかかる。洗濯モノ干しのとき三人の女性の下着を干していると、青天の空の下《オラの人生果 たしてこれでいいのか》とフト考えてしまう・・・・・・・・。ま、いいか。このあと、リハビリの半身浴を30分。それが終わってやっと食事。あまり物を片付ける。午後は子供達が帰るまで自分の時間。この日は天気がいいので愛車(自転車)で青山あたりを流す。ベルコモンズから青山墓地横を通 り西麻布に出る。そういえばこのあたりに知り合いの女の子の絵が飾ってあるカレー屋があるはずだ。労せず発見。しかしこの日は定休日。今風のコジャレた小さな御店。お洒落なガラス窓の隙間から中を覗いてみる。店の中にはテーブルやら椅子がひしめき合って休んでいる。定休日の御店を覗くのはイイものだ。椅子やテーブルの寝顔が見れる。フト壁の方に目をやると見覚えのあるタッチに目がとまる。彼女の絵だ。おもしろいもので絵までも“お休み”しているようだ。スヤスヤスヤスヤ眠っている。なんだか覗き見している自分がいやらしい人に思えてきた。オラはいやらしい人なのか?そう誰かが問う。同時に恥ずかしさが芽生え顔が赤くなる。見知らぬ 人が異様な目で、閉まっている店の中を中腰で凝視している、オラを見る。きっと、人々にとってオラは変な人その一だろう。それにしてもこの“覗き”の感じは面 白い。覗きで捕まった寺山修司の気持ちがわからないでもない。なんかこう見知らぬ 興奮がそこにはあるのだ。今度閉まっている美術館を何処からか覗き見したいものである。

家に帰ると三時を少し回っていた。チャリを漕いだせいか疲れたみたいだ。しばし読書とお昼寝、ゴロリン。四時半。次女が帰ってくる。みずがめ座でB型の次女はお喋りだ。その日学校であったことをいろいろ話してくれる。僕は洗濯物をたたみながら、そうかそうかと相槌を打つ。親としては結構幸せな時間かもしれない、フムフム。しかし、その幸せな時間も洗濯物の中から女性人三人の下着を見つけたときから黄昏の時間に変わる。三人のパンツを小さくコンパクトにたたみつつ、再び《オラの人生これでいいのかナー》そう考えてしまうのだ・・・・・・・・・・。まっ、いいか。黄昏れた気持ちをふりきるように夕食のお買い物。細君からメールで届いた品物リストを決してモレがないように丁寧に買う。

七時。細君が御帰還。人肌のおしぼりを差し出す。ウム、と受け取り顔をゴシゴシと拭く細君。「お帰りなさいませ」そう言うと。再び、ウム、と言って台所に向かう。今日はパンチがなさそうなのでホッとする。僕は黒子のように彼女のお料理をサポート。けなげである。七時半過ぎ。食事。細君と次女の会話が盛り上がるようにホストに徹する。食事が終わると後片付けと洗い物。この二つはわたしの御仕事。テレビを見ている二人の邪魔にならならないように水をザーザー流さずチョロチョロ流して静かに洗い物。涙の努力。そして食器が重なる音がしないようにこれまた慎重に食器拭き。これまた涙モノである。九時。「お先に御風呂いただかせてもらいます」とお断りを入れ、入浴。家族中の穢れを全て引き受けている身体を清めてあげる。六根清浄。十時。長女がバイトから帰宅。残り物を暖めて食べさてあげる。昼間のミフィーの件が尾を引き終始無言の長女。戴きますぐらい言ったらどうだと思うのだが・・・・。これも修行修行。十時半。「お先に休ませて戴きます」家族の者にそう告げる。このとき三人の女性の返事を待たなければならない。「お休み」「お休みなさい」「お疲れさま」。うまく三人が言ってくれればいいのだが、問題は細君だ。たまに意地悪でなかなか返事をくれないときがある。僕は三つ指をついたままズーッと待たなくてはならない。人生は修行である。この日も待つこと三十分。「ウム、寝てよーし」の声が掛けられた頃には指が腐りかけていた。危ないところだ。やっとの思いで布団に入り、スヤスヤスヤ。夢見ごこちでまどろんでいると玄関のカギを開ける音がガチャリ。枕元の時計を見ると深夜十二時半。長女の深夜徘徊。非行への第一歩だ。わが家の門限は甘くしてあり十二時だ。それなのに十二時半に外へ出掛けるとは無礼千万不届き者。これでは環七のドンキホーテではないか(環七沿いの激安ショップ“ドンキホーテ”は近所からの苦情により夜十二時をもって店を閉店することになった。しかしである十二時一分にはまた開店するという子供じみたことをしている)。追いかけて行っって連れ戻すか、どうするか。まっ、いいや、帰ってきてから叱ろう。どうせミフィーの思い出をバカにした腹いせだろう。そう思い、再びウトウト。ああ、眠気がいい具合にオラを包み込む。もうドロドロだ。ああー、イイ気持ちー。そこへ怪獣が向こう脛蹴られたかのような叫び声、「ギャー」。細君のお叫びだ。「ど、どうかなさいましたか」枕元に近寄ると再び「ギャー」。柔道の心得がある僕は細君を抱き起こし喝を入れる。正気に戻った細君はハァハァしながら「ス、ストレスが・・・・」と言葉を吐く。「大丈夫です。安心してお休みください僕がいます」そう伝えると。「それがいちばん安心できない・・・」といいながら眠りに入ってしまった。ヤレヤレ、あちらこちら大変である。なんだかこちらが眠れなくなって来た。オシッコもしたいし、ちょっと下の階に行くか。すると今度は台所でボーッと次女が立っている。この子は小さいときから寝ぼけるクセがある。

  父「どうしたの?」

 次女「・・・・・・」

  父「何立ってるの?もう寝なさい」

 次女「・・・・・・」

  父「自分の部屋で寝なさい」

 次女「・・・・・・はい」

トイレに行って用を足し戻ってくるとまだ次女がボーッと立っている。

  父「おい!」

 次女「・・・・・・はい」

  父「寝なさい」

 次女「・・・・・・はい」

  父「動きなさい」

 次女「・・・・・・はい」

そう言ったものの彼女は自分の部屋には行かず、居間のカーペットの上にゴロリン。まっ、いいか。そうひとりごちて、彼女の部屋から掛け布団だけ運びだし彼女の上へ。フーッ、やっぱり父はつらいよ。さて寝るか。時計を見るともう三時。長女はいまだ帰らず。非行、煙草、飲酒、姦淫、強姦、輪姦、麻薬、誘拐、犯罪、殺人。いやな熟語が頭を駆け巡る、駆け巡るのは青春だけにして戴きたい。もう二度とミフィーのお弁当箱については語らないゾ!人の思いでは馬鹿にしないゾ!週刊誌の見出しが浮かぶ《ミフィーのお弁当箱で堕ちた少女》。ああ、バカバカしい。うーんそれにしても眠れない。と思いつつもウトウトウト。朝五時半。玄関の開く音がガチャリ。お嬢様の朝帰りである。よし怒るぞ!そう思うのだが既に体力は残っておらず、そのまま寝ることに。あと一時間半、それだけ寝ればまた起床だ。あれ、気がつくと枕元の携帯のメールが着信になっている。誰だこんな時間に。開けてみると長女から。詫びのメールかなと思いきや、なんと不幸のチェーン・メール。《このメールを五人以上の人間に至急回さないとあなたの今月のバケット料は\119022735となり云々・・・・》。娘から不幸のチェーン・メールを戴くとは。この世の中に娘から不幸のメールを送られた父親がいるだろうか、トホホホホ・・・・・・。ああ、娘といえどもオナゴの復讐は恐ろしい・・・・・・・。そのまま一睡も出来ずに朝七時。
これまた、たぶん一睡もしていない長女がお弁当箱にご飯を詰めている、それもミフィーのだ。

《こいつ“思い出”にご飯を詰めている。今日は“思い出”とお出掛けか?》

そう言おうとしてやめた。同じ轍は踏んじゃいけない。人生の鉄則だ。しかし朝帰りに関してはしっかり叱らないと。C型肝炎の身にはハードな日々がまた始まる。。。。。。。。

 

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