bo-bo-記 rec.0129 01.07.26



ブルセラ娘」
  


「お父さん、ルーズ・ソックス売っていい?」

「売るって、誰に?」

「誰にって、なんか、渋谷のお店に」

「お店って何」

「何ってチラシにあったのよ。ルーズ・ソックス買いますって」

「それってブルセラなんじゃないのか」

「ないのか、ってことじゃなく、そうでしょ」

「いいのか、それで」

「だって六千円もくれるんだよ、二千円のルーズが六千円だよ」

「うーん」

 わが家では基本的に法に触れること、人に迷惑をかけること、それ以外はやっていいことになっている。僕も子供がやることに頭ごなしに反対はしたくない。わが家が貧乏のため、アルバイトはやってほしい、ともいつも言っている。しかしブルセラだ、娘のルーズを買った人間はそれをポコチンにこすりつけオヨロコビになるのだろう。うーん、気持ちが悪い。僕はいままでフーゾクで働く人に関してなんら偏見をもっていなかった・・・つもりだ・・・そう、ある意味、つもりだったのだ・・・。いざ、自分の娘となると、どうしようかしらん、と、悩んでしまう。ああ、格好悪いゾ、自分。
 でも、よく考えると娘も娘だ。ふつうそのようなことを父親に言うだろうか。答えは否である。わざわざ叱られるようなことをいうやつはバカだ。あっ、もしかして家の娘はバカなのか。それともただ親に心配をかけたいのか、ただ親に心配してほしいのか、それとも理由なき反抗か、オオ!ジェームス、カモン!ディーン。

「その店はどこにあるのだ」

「渋谷だと思う、渋谷でチラシを貰ったから」

「一人で行くのか」

「いや、友達に誘われたから」

でたよ、友達に誘われたから、だ。自分で考えた末、行くのではないのだ。ああ、気にくわん。

「お前サァ、恐くないと思ってるかもしれないけど、大人をなめたらあかんぞー。そういう店は恐い人が経営している場合もあるのだゾ」

「やっぱり恐いかなー」

「恐いさぁ。でも、社会見学も含めてそういう所を覗いて見るのはいいと思うのよ、父は」

「うん」

「でさ、もしものことを考えて、まずソコの場所の下見を念入りすること。そして逃げ道をしっかり確保すること。いちばん近くの交番の場所を頭に入れておくこと。携帯電話はすぐ使えるようにしておくこと。そして何かあったら全速力で逃げること」

「わたし、足遅いからなー、どうしようかなー」

「心配なら辞めなさい」

「お父さんついて来てくれないよね」

「ついて来てくれません」

「だよね」

そこへ、

「俺、一緒に行ってあげようか」

貧乏なわが家に、夕食を食べに来ていたモア貧乏のJが口を開いた。

「来てくれるの」

「ああ、いいよ」

 僕もJが一緒ならとOKを出した。
娘とJは明後日の午後6時に渋谷で待ち合わせをすることになった。次の日、Jから電話が入った。

「あのですね、一応、明日行くその店のことを調べたのですけどね。そこブルセラ・ショップちゃいますよ。完全な“覗き部屋”です。」

「どういうこと」

「分かりやすく言いますと、四方がマジック・ミラーで囲まれた小部屋があります。そこへ女の子が入ってルーズ・ソックスを脱ぎます。その脱いだルーズ・ソックスを覗いていたお客さんが買います。もちろん学生証を見せて学生であることを証明してね。あと、オプションでその子の生写 真と聖水(オシッコ)も付きます。まぁ、そういうことですわ。ちょうどそこのお店のホーム・ページがありますのでお宅に送ります。もう一度、親子で話し合って下さい。それでもよかったらわしはお嬢様のお供しまっせ」

「わかったサンキュー」

電話を切った僕はパソコンの電源を入れ、その店のホームページを娘に見るように言った。そして、

「よく考えて、行きたかったらJについて来てもらいなさい」

そういって本人に託した。 そして、次の日の朝、娘になんとなく聞いてみた。

「今日どうするの、行くの?」

「やめた」

「あっ、そう」

「うん」

 ビビるんだったら、初めから言うなよ。そう思いつつも、どこかホッとしている父であった。やはりオレは、自分のことは棚に上げ、フーゾクに偏見をもつ普通 のオヤジなのか、ああ、格好悪いゾ、自分。

 

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