|
生まれて初めて、人に対して、演技とは、ということを教えた。今まで俳優さんに対して演出をしたことはあるが、演技を教えたことはなかった。演出のときは、裸の王様で自分の世界観に俳優を引きずり込めばいいのだが、教えるということはそれとは違って、彼らのその後の俳優生活を考えて、いろいろ意見してあげなければいけない。これが難しい。それまで自分勝手に表現してきた人間が、人に合わせてモノ造りしなければいけないのだ。こっちにとっても、ものすごい努力と忍耐を要する。ああ、タイヘン。演技って何を教えるの?お答えしましょう。何も教えることはナイのです。っていうか、こうすれば演技はうまくなる、なーんて方法はナイのです。でも、自分だけの演技の仕方、というか、自分にしか出せない味、個性、というものは誰しもが必ずもっているものであって。今回は、それをみんなで個々に探っていきましょう。てな感じでラボは始まったのです。 そのラボは松濤アクターズ・ギムナジウムにて、3カ月にわたっておこなわれました。[映像演技ラボ・春(全12回)]、その合間をぬ
って[はじめての演技(4回)]、[映像演技・夏季・特別講習(連続5日)]も同時に開催され無事終わった。3つの講習とも、田中健三さんという俳優さんとの共同講習で、彼のすすめで僕は講師として参加させていただいた。病欠無職の僕にとってはありがたい話でありました。
[映像演技ラボ・春](以下:春ラボ)参加人数8名。 [はじめての演技クラス](以下:はじめてクラス)参加人数6名。 [映像演技・夏期特別
講習](以下:夏期講習)参加人数24名。
たった3カ月の間に37名の若者達が僕の前を通り過ぎていきました。僕は若者が嫌いです。自分勝手で、何も知らなくて、口だけは一人前のことをいうくせに、何も行動に移さない。そう、そこにいるのは20年前の自分の姿のようでした・・・・。 ・・・イヤ・・・ちがうぞ、オレが若い頃はもっと行動力はあったぞ、 もっと人の言うことを聞いたし、もっと貪欲に何かを吸収しようとしたぞ、etc.・・・・・
その昔、若かった僕らを並ばせて、聞かせてくれた先輩のグチが、何十年の時を経て、自分の内側から立ち上がってくる。ああ・・・きっと、これも歳をとったと言うことなのね。きっと人というのは、自分より若い人間をみると、そこに以前の自分を見ると同時に、過去の自分と照らし合わせ比べてしまう習性をもっているに違いない。ああ、みっともない。オヤジになった証拠である。 それでは、ラボの間、そしてラボを終えてから、いろんな人に聞かれたことを、また生徒からの質問等、いろいろととりまぜてインタビュー形式ですすめまてみましょう。
―ラボをやり終えて、率直な感想はいかがかしらん。
思ったより面白かったし、あきなかった。
―面白い子はいましたか。
うーん、どうでしょう。まだ発展途上の子が多かったので、そんなにズバ抜けて、こい つオモロイ、みたいな子はほとんどいなかったかな。というより、まだ今の段階では表 現になっていなかった、というのが正直な感想。やる気はあると思うし、やりたい気持 ちはみんなにあるんだけど、それだけだった。いい意味でも、悪い意味でも、突出して どうこう言える子がいなかったのは、さびしかったし、今の若者の平均化というやつが こういった表現の場にも押し寄せて来ていることにはいささかビツクリした。個性があ るようで、まったくの物マネだし、自分勝手と自由を履き違えている人が多かった。人 と違うことやってナンボの世界なのに、みんな人と同じことばかりしているし、それよ りなにより、自分のない子が多かった。だから、[春・ラボ]では主に自分とはなんぞ や、自分の表現とはなんぞや、ということを主にやったんだけど、結局なんとなくわかっ てくれたのは半分の4人ぐらいかな。
[はじめてクラス]の人たちは、生まれて初めて演技をする人が多く、それはそれは新鮮ではあったけど、その人たちがこの先10年間変わらずに、そのままの佇まいで芝居をしているかというと、答えは“否”で、つくづく芝居ってなんだろう、とその奥深さを 感じさせられた。[夏期講習]は5日間という短期集中講座で、詰まった感じはあったけど、ひとりひと りをよりよく眺める余裕はなかった。24名のうちひとりでもモノになってくれれば幸い だが、現実としてはきっと、ひとりもいないのが当たり前の意見だろう。それだけ大変な世界なのだ、表現の世界は、チビシイ・・・。
みんな“表現”をしたいというよりは非現実の世界にあこがれているといった気がした。現実じゃない非現実の世界に自分を置く心地よさが欲しいのであって、“表現”をする ほどの根性も度胸もないのである。悲しいことではあるが、それが今の時代の若ものの 在り方かもしれない。
ああ、なんだか語ってしまった、恥ずかしい・・・・・。
でも、できない子はできない子で、作品を演出しているときとは違い、カワイイものである。そう、生徒はカワイイ。金八先生の気持ちがわかるようだ。でも、演出している ときと違い、一体感に欠けるのは仕方がないことなのだろう。
―さっきから表現という言葉がよく出てくるけど、表現ってなーに?
なんでしょう。自分の内側に下りていって、そこで何かを認識、または確認、もしくは発見し、それを表に現すことが表現というやつでなないかしらん。
―でもそれが俳優の“お仕事”かというとそうでもないですよね。
うーん何をもって“お仕事”と言ううんだろう。表現がお金につながることもあるし、まったくつながらないこともあります。でも俳優のお仕事を続けていると必ずこの表現 の壁にブチ当たります。いつブチ当たるかは、人それぞれでしょうが、若いうちにブチ 当たっていたほうが、あとあと楽ではあります。でも、問題はきっと、そのブチ当たり 方にあるとは思いますが・・・・
―こうすれば“お金”や“お仕事”につながるという演技方法ってあるのかなぁ。
演技方法としてはナイと思います。“お金”になるのと“演技がうまくなる”のは違うことです。“お金”や“お仕事”は人間関係がものをいいます。そこには“演技がうま くなる”ことはあまり関係ありません。でも“演技がうまくなる”ことで、その人間関 係が開けることはあると思います。
―運と実力があればこの世界なんとかなりますか。
運と実力と才能があっても、どうにもならないのがこの世界です。でも、逆になーんにもなくても何とかなっている人が居るのも、この世界の特徴です。
―私の芝居がある日、突然変わることってありますか?
ものすごくショッキングな出来事があなたの身の上に起きたら変わるんじゃないでしょうか。それでも変わらなかったら、あなたは相当鈍い人です。でも、それはそれで才能 かもしれないなぁ・・・なんのこっちゃ。
―今後のラボの予定は?
田中さんと一緒に11月から[映像演技ラボ・秋]を開催します。
―今後の課題は?
僕たちがやっているラボはあくまでも“遊ぶ”というのが基本なので、もって遊んでみようと思っているおります。
―若者達とラボを終えて、お別れしてどうですか?
さびしくて、さびしくて、仕方がない。また、毎週あのバカヤロウ共に会いたい。僕をひとりにしないでほしい。 あと、本当にひとりでもいいから面
白い俳優さんになって欲しい、そう思います。
―なんだかんだいって、若者が好きなんじゃないですか?
うーん、そうかもしれない・・・・・・・・くやしいけれど・・・・・・・。
―そろそろ“人間嫌い”は撤回した方がよろしいのでは?
うーん、“人間嫌いのさびしがり屋”じゃ駄目ですか。とりあえず、まだそういうことにしておいてください・・・・そうしましょう。 ではでは。
next rec.
|