bo-bo-記 rec.0135 01.09.02



ビデオ感想文『顔』」
  


 僕は自分の出演した作品はみない。“絶対”といっていいほど見ない。たとえ出番がちょこっとであっても見ない。カワイコちゃんに、「ネエ、見てヨーン」と言い寄られても見ない。なんのこっちゃ。だけど、とうとう見てしまった。それは「顔」という映画です。もちろんロードショウはとっくの昔に終わったのでビデオで見ました。どうにもこうにも役者=藤山直美の演技が見たかったのです。僕は俳優業を病欠する前に、阪本順治監督の映画「顔」に出演し、ホンのチョットだけ彼女と共演しました。そして、あの暑い夏の大分県姫島で初めて会った彼女に対し、役者の持つ“どす黒い魂”を見てしまってから、彼女の演技、生き方に興味をもってきました。その後、いろんなテレビ番組で彼女の演技を見る機会はあるのですが。あの夏の衝撃は、そこには見当たりません。ああ、もう一度あの演技が見たい。今の時代、客にそう思わせる役者が他にいるでしょうか・・・答えは、“否”、もちろん彼女以外に。

 演技という者は監督との息の合い方もあると思います。現場では阪本監督もハッキリ言って凄かった。部屋がピンクに見えたり、夜ひとりで寝ていると誰かが足を触ってくると言っていた。恐ろしい・・・。監督と藤山さんの強烈なアクの強さで、表現の世界の毒気には慣れている僕も、撮影中はそれに暑さも加わって、毎日クラクラしておりました、ほんとに。“どす黒い魂”を持つ女優を演出させたら坂本監督は絶品です。もちろん監督も“どす黒い”何かをお持ちになっていらっしゃる、ハイ。

 先程から“どす黒い魂”と僕は表現しておりますが、これは芸人になくてはならないモノ、ないと芸が薄っぺらになってしまうモノ、まあ、地獄をくぐり抜けてきた者だけに与えられるモノ、とでも言えばよろしいでしょうか。現存する役者さんや芸人さんでこれを持っていると思われる代表的な方は、三国連太郎、松本人志、藤山直美のお三方ではないでしょうか。これ、ものすごく褒めていますので、おまちがいなく。

 そうそう、思い出した。今年の日本アカデミー賞はなんだろう。主演女優賞に松嶋菜々子はノミネートされているのに、藤山直美はノミネートすらされていない。作品と監督はノミネートしてるのに、主演女優は無視である。キット日本アカデミー賞には“どす黒い”モノはいらないのでしょう。日本映画の淋しさを見た思いであります。悲しい・・・。 で、映画をビデオで見た感想はと言うと。面 白かった。ひさびさの面白い日本映画でした。藤山さんの演技もさることながら、阪本さんの演出、笠松さんのカメラ、cobaさんの音楽、みんなよろしかったです。母親の葬式の日に、妹(牧瀬里穂)を殺して香典をバッグに入れ、実家を捨てて逃げて行く藤山直美の姿に、はじめてcobaの音楽が入るところは絶品です。鳥肌立ちます。この瞬間に、この映画は勝ちや、そう思いました。

 我が家によく飯を食べに来るJ君は、牧瀬里穂が藤山直美に足をひっかけるシーンでの藤山さんの倒れ方が絶品と褒めていたが。僕に言わせると、そこだけが藤山さんの芝居の計算が見える、唯一イヤなところでした。J君はあまり芝居がわかっていない。イイ人なのだが、たまに大間違いなことをおっしゃる。その昔、レオス・カラックスの大駄 作「ポンヌフの恋人」を観て、生涯のベスト1です、と言い切っていた男だ。趣味がしれている。最近では、北野武の「ブラザー」をステキだと、したり顔で言っていた・・・悲しいことです。

 閑話休題、で、僕はどこがいちばん好きだったかというと、映画の中盤、ラブホテルで一緒に働く女の子が、藤山さん演じるところの殺人犯の指名手配の写 真を指し、「この人、ぜったい友達おらんわ」と言う台詞に、藤山さんが「・・・友達て、おらなあかんの?・・・」そう呟くように言うところです。なんだか感覚的にゾクッときて、彼女の、その、モノの言い方に完璧に倒される感じがしました。人の演技を見て、倒される感じがしたのは何年ぶりでしょうか・・・。

 とにかく、藤山直美の凄さをこれでもかと見せつけられる映画です。共演者はいかがかと言うと、やはり主役が良すぎると脇は霞むなー、というのが正直な感想で、出演者みんながみんな“イイ”映画ではなかったです。そこだけが惜しかったと思います。それでも10年に1本の名作でしょう。見ていない方は、是非見て下さい、損はしません。

 調子にのって、よーし阪本ワールドを研究するぞ、と続けて借りた阪本監督の最新作「新・仁義なき闘い」は「顔」の後だけに、やはりどこかで比べてしまい、何かもの足りなく感じました。表現を継続していく難しさを、いまさらながら考えさせられたのでありました。 

 でも、しつこいけれど、藤山直美は本当に凄い。

 next rec.

 

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