bo-bo-記 rec.0137 01.09.05



溶けてしまったサトウ君の友人であるところのO君についての気になるいくつかの出来事」
  


 僕の演出作品「ZOO」を終えた無自覚大根役者のO君は、その後、どのようなエピソードに包まれてサトウ君の死を耳にしたか。思いつくままに書いてみよう。

 あれだけ死んだ大門の力をかりて稽古をしたにもかかわらずO君は本番で泣けなかった。O君は自分自身に負けた。でも、僕は彼の散り際には、もってこいの作品だったと思い納得した。
 共演者のサトウ君には悪いことをしたと思ったが、彼も「大丈夫です。自分で選んだことですから」と言ってくれた。作品の不出来よりO君の完走に拍手を送ったのだ。本当にいい奴だ。 しかし、ある日O君から電話が入った。

 「今回はありがとうございました。やっと、俳優の面白さがわかってきたように思います。これからは心機一転、ガンガン演劇界に旋風を巻き起こして行きたいと思っています。見ていて下さい!」

 ああ、己の力のなさに気づき役者を廃業するかと思っていたO君は、どうやら継続するそうだ。オレは何をやってきたのだろう・・・・。自分の力のなさに腹が立つと同時に落ち込みます。折り返しサトウ君にその旨を報告すると、彼はただ仏様のように笑っていた。
 それからO君はどうしたかというと、演劇界に旋風を巻き起こすでもなく、ただ無意味に人生の時を過ごし、母親の死を迎えた。

 ああ、これでO君の青春は終わった、とみなが思い、僕も彼は定職につくものとばかり思っていた。「これで彼も年貢を収めるでしょう」さすがのサトウ君もそう言っていたと、風の便りで聞いた。が、である。彼は定職に就くどころか、なんと母親を亡くした寂しさを埋めるためだけの《結婚》をしてしまったのだ。そして、妻を食べさすために心機一転これからはマスコミの世界に新風を、と言って某大手プロダクションに入る。
 「結婚もプロダクションも、持って三年」
 僕はそう断言した。実際は一年で終わった。O君は○が○○○をしている○で○○○○をしてしまい。ついに離婚。プロダクションは首。ああ、むなしい・・・。

 ひとりぼっちになったO君はしばらくブラブラしていたと思ったら、なんと今度は突然作家に変身。噂によると、先生、先生と言われる日々を送っていて、毎夜ゴールデン街で、直木三十五出て来い、と、叫んでいるとかいないとか。僕は話半分に聞いていたが、話は十分の一にも満たなかった。作家も構成作家の方で直木賞をとるような小説は書いていなかった。先日、彼が構成・演出した、売れる前のゴスペラーズのビデヲをゴスペラーズ・ファンの我が家の次女に見せたところ、つまらなすぎる、と激怒されてしまった。・・・恐かった。

 その後、官能小説を書いていると言うので、おっ、団鬼六か、そう言えばO君も英語とスケベーに関してはうるさいハズ、と思いきや、“ハメ録り生書き記事”だった。それでも文章が面 白ければと期待したのだが・・・・大根役者は大根記者でもあった。そして彼は赤貧の生活へ・・・。 今の彼の住まいは、飲み屋のトイレの隣のある小さな倉庫である。したがって彼の住まいに行くには、飲み屋を通 過しなければならない。ということは飲み屋の営業中に彼の家に行こうとすると、まず飲み屋の暖簾をくぐり、“お通 し”をいただき、チャージを払ってからでないと彼の部屋には辿り着けないのだ。なんという馬鹿馬鹿しい段取り。可哀想なのはO君の彼女だ。店の客に喘ぎ声は聞かれるし、朝、会社に行こうとすると、まだ飲んでいる客が残っていて、おっ、ヤリたてのホヤホヤで御出勤かい、とからかわれる始末。もっとすごいのは明け方に客が出払った日などは、マスターが仕事終わりの疲れを癒すために大音量 でルイ・アームストロング聞くそうで、どんなに疲れて爆睡していようが跳び起きてしまうそうだ。恐ろしい。 今年に入ってO君はとうとう定職に就いた。CSTVのディレクターだ。僕も細君も喜んだ、あのO君がやっと己を知って定職に就いたのだ。懐もいくらか豊かになり、O君に生まれて初めて平穏無事な時が流れつつあった。そのときサトウ君が死んだ。溶けて流れて、この世からいなくなってしまった。O君にまたまた寂しさが訪れ、O君はまたまたおかしくなってしまった。

 「サトウの分まで、また役者や作家でやっていきたい・・・」
 自己管理能力が欠落してしまっているO君の自己顕示欲はまだまだ続くのである。
 「あの人は、居てもどうということはないが、居ないと寂しい」
 という言葉があるが、O君の存在はこんなところだと思う。

 彼は今サトウ君が死んで寂しくて仕方がない。付き合っているベイビーは三人居て、ウソかホントか知らないが三人から結婚してくれと言われているらしい。またまた寂しさを埋めるためだけなので、よしといた方がいいとは思うが、その続きも見てみたい気もする。いずれにしろ僕にとってO君は愛すべき人物であることには変わりない。いつかキチンとO君のことは小説にしようと思っている。僕のようなウジウジとしたつまらない人生を送るより、たとえ己を知らなくても彼のようにバカな人生を歩んだ方がよっぽど幸せだと思う。がんばれO君。僕はいつまでも君を観察していたい。

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