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突然ですけれど僕は《飲む・打つ・買う》のどれひとつもやりません。この現代社会の中でこんなに品行方正な男がいるでしょうか。答えは《否》。いっそのこと国の天然記念物にでもして保護してほしいくらいのマジメ人間です。そういえば10年以上前に井上陽水が出演していた車のコマーシャルに《食う・寝る・遊ぶ》というコピーがありました。たしかコピーライターは糸井重里だったと思います。このときも僕は“違うなぁ”と思いました。だって、僕はあまり、とういうか、ほとんど“遊ぶ”ということをしないからです。あと“食う”ことに関してもそんなに欲はありません。食卓に美味しい御飯と納豆と焼き鮭があれば文句はないからです。だから“食う”と“遊ぶ”ははずしてもらって、そこに好きな本を“読む”ことと、いい温泉を“浴びる”ことを入れて、僕の場合は《食う・読む・浴びる》となります。さあどうだろう《飲む・打つ・買う》を一切しない《食う・読む・浴びる》の男。こんな女房にとって都合のいい男は日本中どこをどう探しても見つからないだろう。そう細君に言ってやると、
「あなたにはそれを全部吹き飛ばすぐらいのワガママさがあるから全てチャラよ」
そうシラーッと言われてしまった。チクショウ、こんな仙人のような男にワガママだとー!あーあー、オナゴは何もおわかりになっていない。男はつらいよー。まっいいか。ところで仙人といえばカスミです。先日僕はカレーを作りました。まあカレーといっても野菜を切って、肉と一緒に炒めて、煮て、そこにインスタントのルーを入れる。というとても簡単なものだけど。僕は昔ながらのこのカレーが大変すきなのです。僕だけではなく家族みんなが好きなのです。だからカレーの日はみんなふだんよりよく食べるため御飯はアッという間に売り切れてしまうのです。
この日もカレーの入ったお鍋の蓋を持ち上げた次女が、
「おとうさん、どうしよー、あと1杯しかない」
「えー、早いなぁー、なくなるの。いいよ、お前食べなさい」
「だって、おとうさんは?」
「いいよ、おとうさんはガマンするから」
「ガマンはよくないよ。それに何か食べないと体に悪いよ」
「うーん、じゃあ父はカスミでも食べるよ」
「なーに?カスミって」
「調べなさい、それぐらい」
「はーい」
そういって次女はカレーを食べはじめました。カレーを食べそこねた僕は、居間でゴロリン。本を読みながらウトウトウト。さぁ、どのくらいウトウトしたでしょうか。気がつくと台所の方でバタバタ、ガタガタ、バタンバタン、と音がするではありませんか。
「何してるの?」
そう次女に尋ねますと。
「まだお腹空いてるの」
そう言いました。
「カレー食べたのにまだ?」
「うん」
「そこらへんに何かあるでしょう。適当に食べなさい」
「うん、わかった」
でも、なぜか次女はそこを立ち去ろうとしません。
「どうしたの?」
僕はめんどくさそうに聞きました。
「あのさぁー、さっき言ってたカスミって調べたけどなかったよ」
「そんなことないだろー、ちゃんと調べたのか」
「うん」
「広辞苑で調べたのか」
「広辞苑では調べてないけど・・・」
「じゃあ、何で調べた?国語辞典か?」
「・・・エーッと・・・調べたのは・・・冷蔵庫と、戸棚と、台所のした」
「だからおまえさっきからバタバタバタバタと・・・お、おまえ、まさか、カスミって、食べ物と思っとったんか」
先程の物音は次女がカスミを探す物音だったのです。
「違うの?ワタシまだお腹空いてるから食べてみたいんだけど、食べ物ちがうの?」
「いや、違っちゃいないけど・・・あれだ・・・人間が食べるもんやないんや」
「エッ、どいういうこと。だって、おとうさんが食べるんでしょ?」
「そー、そーやけどなー」
あーあ、みなさん、子供に迂闊な事を言うのはやめましょう。へたをするとカスミを食べようと家捜しをはじめます。恐ろしい・・・・・。
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