bo-bo-記 rec.0082 00.11.26



エンゲキ=[mne.george]のころ(9)」
  


 八年殺しの武蔵野。僕が付けた僕だけが知る武蔵野君のあだ名だ。彼は好きな女の子が出来ると何年かかろうが地道に接触を続け、決して自分からは告白せず、最終的に女性の方から“あなたが好き”と告白させてしまう。その最高記録が八年で。八年殺しはそこから来ている。気が長いというか、執念深いというか、粘着力があり過ぎるというか、あまり尋常ではないゴウを生まれながらに武蔵野君は背負っている。この女性に対する業の深さをなんとか利用できないか。この一見マゾっぽい性格をサドっぽい方に転換できないか。いや、キット武蔵野君は本当はサドに違いない。ただキッカケと勇気がないだけで、女をいたぶることに喜びを感じる男ではないのか。そうでなければ八年は待てないし、女性の方から告白させて満足感を得ることもないだろう。女性に対してかなり捩れてしまった性格に武蔵野君自体持て余している感じだ。彼に関しては女優が決まったらゆっくり追い詰めて行こう、僕はそう決めた。

それにしても肝心の女優がなかなか決まらない。僕はFに対してかなりイラついていた。このところ女優探しで忙しいのかFからの連絡はない。ついついFにではなくその部下のノブ子にあたってしまう。いつまで時間かかってるんだ、ちゃんと探してるのか、早き決めてくれないと何も出来ないじゃないか、これじゃ作品は造れないぞ、心では《あたって、ごめんな》と思いつつも口の利き方がドンドン乱暴になっっていく。僕とFの間に挟まれたノブ子はさぞつらかったろう。もう我慢できない、女優なしでいこう、明日Fにそう云おう。そう思った日の夜、久しぶりにFから電話が会った。  

「アンナって歌手の女の子ご存じですか。」  

「知りません。」  

「知り合いがそのアンナって云う子のマネジャーをしていたんですが、今から写 真とプロフィールをファックスで送りますので見て下さい。それでもし気に入ったら明日会う段取りをつけますから。」

十分後、ファックスから出て来た写真を見た。はっきり言ってファックスで写 真を送られても何がなんだか分からない。全てがベターとしている。わかったのはその女の子が髪の毛をアップにしていることだけだった。髪の毛がアップの女性は個人的に大好きだ。決めた。この子にしよう。もちろん時間がないこともあったが。何かがそうさせた。今から考えるととてもいいかげんな気がするが。そのときはカンが働いたと、そう信じるしかなかった。僕はノブ子に電話をして。  

「この子にして。この子がイイ。この子じゃないとダメー。」

ダダをこねるように云った。この焦りが後々に一騒動起こすことになるのだが・・・。  

「わかりました。決めるようにFに言っときます。」

数日後。稽古場に現れたアンナは道に迷ったおフランス人形ちゃんのようだった。 これで、全キャストが決まった。やっと本格的な稽古にはいれる。本番は10月15日と16日。アンナが決まったのは既に九月に入ってた。

アンナは雰囲気のある女の子で、そのままで居れば不思議な空気を醸し出す、この芝居にはピッタリの女の子だった。僕は彼女に対してはあまり縛らない演出することに決め。アメリカ同様、自由にやらせることにした。

本石君と静岡君は第一段階の感情の出し入れはクリアー。アメリカとアンナはとりあえず放任演出に決めたし。武蔵野はアンナがもっと稽古に馴染んでから突っ込んだ演出をすることにして、残るは主役のトシ。一番安定していてほしい主役の彼が、じつはとてもやっかいな人だった。某大物時代劇俳優の付き人、悪役団体の一員と一番ちゃんとした俳優の経歴をもつ彼だが。芝居を演らせると、な、なんと果 てしなくクサイのである。こういう人は俳優を目指す若者にとても多い。とにかくやることなすこと誰かのマネ。どこかのテレビで、どこかの映画で見たことのある演技ばかり。マネするなら心までマネすればいいのに心は全然入っていない。外見ばかりである。おまけにオーバーだ。今まで誰にも注意されなかったのだろうか。お前には自分がナイのか。個性といううものはナイのか、存在感というものはないのか。いくら口を酸っぱくして言っても彼には僕の言っていることが理解できないらしい。まるで仏教徒に神の教えを説いてるようで、こちらもかなりのパワーを要する。でも頑張って毎日彼に言ってあげる。クサイ、クサすぎる、全部クサイ、存在そのものまでクサクなってきた、ひょっとしてお前は魂までクサイんじゃないのか。。。。。それでも長年染み付いてしまったトシの芝居クササは消えることはなかった。そのうちなんとかなるだろうと思っていた僕も、そのうち少しづつ焦るようになった。今回のようにカフェ・バーというリアルな空間で、そこに働く人間と客の話という物語を、客席と演技エリアの区別 をほとんど作らずリアルな表現で見せようとしているとき。クササだけは絶対禁物なのだ。現代の若者の話を表現したいのに一人だけ芝居が時代劇では困るのだ。トシには何を言ってあげればわかってもらえるのだろう。なんだか駄 目になった彼女との仲をなんとか修復しようとしている情けない男のような気分になってきていた。

九月も半ばを過ぎ、本番会場になるF達が運営する新しいカフェ・バー「X」がオープンした。 トシのクサミに頭を悩ましていた僕にもう一つ問題が降りかかってきた。

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