bo-bo-記 rec.0084 00.11.29



エンゲキ=[mne.george]のころ(11)」
  


「それって、どうゆうことですか。」  

「どうもこうもありません。死にたいのです。」  

「理由があるでしょう、理由が。子供じゃないんだから、ちゃんと説明しなさい。」  

「死にたいのに理由ってあるんですか。」  

「あります。あなたがおバカじゃないかぎりあります。何時間かかってもいいから。ちゃんと聞きますから。理由を述べましょう。」

なんだか芝居の稽古のようになって来た。  

「・・・・うーんと・・・・・・・・・・・・。」

少し考えてるようだ。考えてくれればこちらのもんだ。衝動的にせよ死ぬことはないだろう。  

「なんだか今日はもう面倒くさくなってきました。」  

「じゃあ、今日はとりあえず寝て、明日また考えなさい。明日は稽古来ますか。」  

「わかりません。」  

「わかった。どちらにせよ僕かFが明日電話入れます。」

受話器を置いた僕はドッと疲れていた。  


翌日、アンナは稽古に来なかった。僕とFとノブ子はアンナの家に行ってみることにした。渋谷から富ケ谷の交差点を環六に入り、中目黒方面 に数百メートル行くと右手にアンナが住んでるマンションが見えた。僕たちはマンション前に車を止め。小さくて狭苦しいエレベーターで4階まで行き、ノブ子がチャイムを押した。
しばらくして顔色の悪いアンナが出て来た。

「な、なんですか。」

彼女の声が感情的になっているのがわかる。

「ちょっといいかな。」

テレビドラマに出てくる態度の悪い刑事のように、歓迎されていないと知りつつ僕たちは、玄関の扉から身体をすばやく室内に滑り込ませた。
アンナもアンナだ。玄関先の50センチ四方の場所より奥へは、僕たちのことを入れようとはしない。僕たち四人はエレベーターより狭い空間に何とか座り込み話し合いをする態勢を作った。

「これおみやげ。」

ノブ子がル・ヴァンで買ったおいしいパンを差し出した。

「どうも。」

なんだよ、大の大人がお前のためにノコノコ時間を割いて来てやってるんだよ。どうもはないだろう、どうもは。それにここのパンは天然酵母で高いんだぞ。わかっておるのか。と、思ったが。

「今日はどうしたの、なんで稽古来なかったの。」

頭にキテはいるが、優しく聞いてみた。

「・・・わたし・・・・やっぱりできません」

ゆっくり話し始めたアンナの言い分はだいたいわかった。所属事務所、レコード会社、実家のご両親との確執、いずれもうまくいっていないこと。でもそんなことは誰もが抱えている問題。アンナだけが特別 に不幸なわけではない。でも本人にしてはお先真っ暗。夢も希望もなし。それで誰かに甘えたくなって。もう芝居なんかできないー、生きてるのいやー、死にたいー、となってしまったわけだ。こーゆう個人的な問題は、誰かが話を聞いてあげさえすれば本人の気は随分収まるわけで。アンナの場合も話を聞いてあげてるうちに彼女はだんだんと落ち着きを取り戻して来た。ヤレヤレ。これだから女優は困る。本当にワガママちゃんが多い。子供のようにみんなで心配をしてあげないと満足しないのだ。トホホホ。オラはもうこんなことには付き合いたくないゾ、と思いつつもここは芝居のため。グッとこらえて我慢我慢。

「とにかく二三日休んでまた稽古に来いよ。あの役はお前しかいないんだから。」

最後にそう言ってアンナのマンションを僕たちは後にした。
マンション前に停めてあった車に乗り込んですぐ、僕はFに言った。

「違う女優。キープしておきますか。」

舌の根も乾かないうちにこれだ。だから大人は信用できない。本当にひどい人だよオラは。

「わかりました。当たってみます。」

こういうときは行動も早くなる。Fは携帯で何処かに連絡を取り始める。  

「その方がイイですよ。あの様子だと、またダダをこねますよ。」

同じ女性であるノブ子が言うのだからそうに違いないのだろう。

「明日、稽古が終わった後時間下さい。一人連れて来ます。」

まるで女衒のようなFに僕はプロデューサーとしての信頼と人としての不信感を同時に持った。

 次の日、「X」にプロデューサーのFが連れて来た女の子はアンナよりもグッと大人っぽくて女らしい人でした。

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