bo-bo-記 rec.0086 00.12.04



エンゲキ=[mne.george]のころ(13)」
  


 死にそうな思いで家に着くと留守電が二つ入っていた。 ひとつはFからで、

「早速、K子には断りの電話入れときました。」

ありがとう。と僕は電話に向かって頭を下げた。もうひとつは、

「いろいろおさわがせしました。明日から稽古に行きます。」

アンナからだった。女心と秋の空とはよく言うが。本当にオナゴの気持ちはよくわからん。結局振り回されるのはこちらの方で、オナゴはいけしゃーしゃーと生き続ける。あー、いやじゃいやじゃ。 そういえばこのとき会ったK子は数年後、還暦間近の某有名舞台演出家と恋仲になり、彼の子供を身ごもることになる。老人が好きなんです、と言うあの言葉はまんざらでもなかったようだ。  次の日、久しぶりに稽古場にアンナが来た。まあ、スッキリとは行かないだろうが本番までなんとかなだめつつやって行くしかない。あまり元気がないアンナに、そのままの気持ちでいいから。なにか元気のない感じのエチュード(即興劇)を造ってみて、と言ってみた。

「ひとりでですか〜。」

と、聞くので。

「じゃあ、トシと静岡君に手伝ってもらいなさい。」

「わたしの話でもいいですか〜。」

「なんでもいいよ。なんか元気のない出来事を演じて下さい。」

アンナ、トシ、静岡君が打ち合わせを始める。僕は武蔵野君を近くに呼んだ。

「昨日はごめんナ。」

「アンナなんかあったんですか、元気ないですよ。」

「お前、寝ていいヨ(笑)」

「まだ言ってるよ、このオッサン(笑)」

「今日、帰りにみんなでお茶でもしてくれないか。それで少し彼女のことほぐしてほしい。」

「わかりました。やっておきます。」

「お茶代は請求して下さい。」

「ごちそうさまです。」

そんな話の間にアンナ達の打ち合わせが終わり、エチュード稽古がはじまった。 はじめにトシが簡単な説明をする。

「静岡さんが事務所の社長、僕がマネージャー、アンナがアンナ自身を演じます。では、始めます」

嫌な予感はしたが彼女が自分から考えた設定だ、とにかくみて見よう。 話はこんな話だった。事務所の社長とマネージャーがアンナを首にしたいのだが、どちらがアンナに言うか揉めている。そこへアンナが次のシングルCDの打ち合わせに事務所にやってくる。社長もマネージャーもなかなか言い出せない。なんとなく二人の様子がヘンなのに気づき、アンナの方から二人に聞くことに。あの、、、わたし首ですか。 ちょっと待ってくれよ、これ実話じゃないか。なんでアンナは今ここでこんなベタな寸劇をやるのだ。ますます彼女のことがわからなくなって来た。

「ちょっと休憩にしよう。」

僕はアンナを連れて代々木公園に行った。十月の夕方の公園は人影まばらで、落ち着いて話をするにはちょうどいいだろう。そう思ったオラがバカだった。寒空の下にもかかわらずアベックばかりで、あちらこちらでブチュー、チュー、ベチョー、と口吸い行為のオンパレード。やっとのことで空いてるベンチを見つけて彼女と二人で腰を掛けた。

「ゴメン、こーゆー話はこれでもうヤメにしたいんだ。お前さ、何が言いたいの。何がしたいわけ。前の事務所でイヤな目に遇ったのはもうわかったよ。でも、もうおわったことだし、わすれろよ。もうその事務所に戻ることはわすれて、恨むこともわすれて、稽古に集中しないか。今のままではほかの役者にも失礼だろ。」

「だから、もうしたくないって言いました。」

「じゃあ、やめるか、いまここで。それでもいいゾ。もうやめて帰れ。芝居はお前ナシでなんとかするよ。そうしよう。」

「・・・・・・・」

「お前さぁ、何がしたいわけ。ガキみたいにグダグダ言って、何したいのよ。」

「歌が・・・歌いたい・・・」

「歌えよ。歌えばいいじゃないか。今ここで歌たっていいじゃないか。でも違うんだよな、きっと。お前はさ、歌いたいんじゃなくて、芸能界にいたいんだろ。」

「違います。」

「違わないの。そうなの。芸能界にいて、皆からちやほやされたいの。別に恥ずかしいことじゃないよ、それって。でもいけないのは、それをお前自身認めていないこと。お前は芸能界大好きアンナちゃんなの。それをよ〜くわかっていれば、それはそれでカッコイイんだけど。お前はそれを認めない。それがとってもカッコワルイ。他の連中見て見ろよ。みんな、お前より年上で、お前より貧乏で、お前より無名だけど、お前よりは一生懸命稽古に打ち込んでるよ。悪いけどお前よりはカッコヨク見えるよ。トシなんか臭くて仕方がないけど一生懸命稽古してる姿を見ると、なんとかしてあげなきゃ、って思うよ。今のお前は見ていて腹が立つよ。悲しい私を見てちょうだいは、家に帰ってやれよ。」

賭けだった。ヘタをするとこういうことを言うと本当に帰ってしまう女の子も多い。でも、言ってしまった。もうどうにでもなれ。隣のベンチのカップルは乳揉みに入っていた。 沈黙は続いた。 隣のカップルの男は揉みほぐした乳を口にくわえていた。 片方の乳が風にさらされる。

「さむ〜い、片方のオッパイが固くなっちゃう〜。」

オ・オラが嘗め回して暖めてやろうか、ヤケクソ気味の僕は心の中でそう呟いた。

「・・・ごめんなさい・・・わたし・・やります・・やらせてください。」

「えっ、な、なっなにを?」

周りのカップルの行為に頭を持って行かれてた僕は、イキナリ「やります。」と言われ、何をやるのか勘違いしかけていた。

「芝居です。」

「ああ、あれね。」

しまった、こんな青春ドラマのようないいシーンでなんだかヒトゴトのような相槌を打ってしまった。

「いまからあらためて、よろしくお願いいたします。」

おお、先生と生徒の和解の良きシーンだ。しかしだ、隣のカップルに目をやると、すでに男の上に女がまたがっているではないか。これはひょっとして入っているのか。ジリジリと黒い服着たデバガメのオッサン達も近づいて来た。小声で言いあっている、入っとる、入っとる。イカン、これ以上ここに居ると、オラも理性を失ってしまいそうだ。そうなったらアンナにガオー、ガオー、っと飛びかかってしまうだろう。イカンイカン。早く逃げなくては。

「よし、稽古場まで走ろう。」

青春ドラマのラストを締めくくるように僕たちは走った。一生懸命走った。そうしないと僕のポコチンは鎮まってくれなかったのだ。 稽古場に着くと男たちだけで稽古を始めていた。 僕は演出席に座り、冷たくなった缶 コーヒーに口をつけた。 武蔵野が寄って来た、そして小声で話しかけて来た。   

「大丈夫でした?」

「うん、なんとか。」

「僕・・・。」

「どうした。」

「考えたんですけど。」

「うん?」

「寝ていいですよ。アンナと!寝ますアンナと!寝させて下さい!!」

武蔵野の体に力が入っているのがわかった。

「ああ、あれな、もういいや。なしになった。」

「ええっ、どういうことですか。」

「どうもこうも、なしになったんや。お前、すけべえなことばっか考えとらんと、はよ、稽古しぃや。」

僕はジロリと武蔵野を見やった。なんだか不服そうに武蔵野は引き下がった。 まあいろいろごたついたが、その日を境にアンナは二度とやめるとは言わなくなった。 やっと落ち着いてスタートラインに立てる。そんな気持ちだった。

→next rec.

 

(C)ChildishWorks&PlayHouse 2000, All rights reserved.

 

HOMEProfileActivityWhat's bo-bo-bo-bo-recordMailmagazine