bo-bo-記 rec.0088 00.12.07



エンゲキ=[mne.george]のころ(15)」
  


 照明のオッパイはその名のとおりの大きな胸で、巨乳というよりボインとかデカパイとかいう表現の方がよく似合う胸だった。打ち合わせ中にこらえ切れずに思わずムンズと掴みそうになったことが度々あった。そんなときの僕の頭の中は、そ・そこの明かりのイメージは・・・(ボイ〜ン)・・・闇の中に・・・(ボインン、ボイ〜ンン)・・・こう蠢く魂が・・・(ボボボボボボボヨヨイ〜〜〜〜ン)。ほとんど打ち合わせどころではなかった。

音響の若さんは某大物俳優Sケンの元マネージャーだ。夜中の三時にそのSケンから

「今、カレーを作ったところだから、今からカレーを食いにこい。」

と言われ。あまりの理不尽さに嫌気がさしマネージャー業を廃業。その後自己流の音楽活動をしながら僕の作品の音響を担当。コンブさんと言うイラストレーターの奥さんを持つ恐妻家で、その反動でAVビデオマニアになり、その知識は右に出るものがいないほどだ。彼と話をすると、永嶋あや、桜井瑞穂、幸あすか、姫ノ木杏奈、有森麗、卑弥呼、等々いろんな名前が飛び交うので。なんやぎょうさん女友達がおるなぁ、と思っていたら。全部AV女優の名前で吃驚したことがあった。

演出助手は劇団昆虫ボルトの伊東君。彼にもおもしろい話がある。僕が俳優たちの感情の出し入れの稽古をしていたときのことだ。この稽古はリー・ストラスバーグ(アメリカの俳優兼演出家。俳優としては「ゴッド・ファーザー・パート 」。演出家としてはあのマリリン・モンローを演技派にしたのが有名)がアクターズ・スタジオでやっていた稽古で。まず、その俳優が過去に体験したことから感情を引き出してあげる。そしてその感情を役の感情に上手にスライドさせて。今度はそれを定着させてあげる。そんなようなことだ。その日はトシの日だった。相変わらずトシの芝居はクサイ。   

「おまえ、お父さんいるか。」

「いません、死にました。」

「いつ死んだ。」

「僕が東京に出て来てすぐです。」

「死に目に会えたの?」

「いいえ、でも、病院に着いたら、まだ身体が暖かくて、親父の口にタバコを咥えさせて、火を点けてやりました。」

「そのときの感じ、覚えてる?」

「ええ。」

「やってみようか。武蔵野君、トシの親父演って。ベッドに寝てればいいから。」

「トシは親父が死んだのを聞いて、東京から駆けつけて来た設定。ドアを開けて入ってくるところからやろうか。エーッと、気持ち出来るまで入って来るな。何時間かかってもいいから、キチンと気持ちが出来るまで入って来るなよ。じゃあ外で気持ち作って来て。」

「はい。」

トシは出ていった。この間に稽古場をトシの親父が死んだ病院のような雰囲気に作り替えるのが伊東君の仕事だ。でも彼は何か考え込んでしまっているのか、ちっとも動こうとしない。そればかりか一点をジッと見つめて尋常ではない感じだ。まあ、いいや、ほっとこう。僕は武蔵野君や静岡君達と稽古場を病院の感じに作り替えていった。一時間ばかり経っただろうか。トシが入ってきた。いつものクササはない。いい顔だ。稽古場に緊張感が走る。やはり父親の死に立ち会ったことは、彼にとっては悲しみの宝庫になっていたみたいだ。それにしても悲しみをこらえている男の顔は実にいい、なんといっても色気がある。ジッと父親の顔を見つめ、ポケットからタバコを取り出す。なんて自然なんだ。これがあのトシか。自然の動きの中に悲しみ有り。タバコを咥えそっと火を点ける。ゆっくり吸う。心なしかタバコを挟んだ指が震えている。ため息ものの演技だ。震える指で挟んだタバコを親父の口に咥えさせるトシ。親父の顔にボタボタと落ちていく。トシの涙だ。見ているこちらもウッと来る。そのとき、ウォー・ウォーとなんだか動物のトドが叫んでいるかのような声が稽古場に轟いた。ど・どうした。見ると、伊東君が泣いているではないか。というより、涙が滝のように流れている。慟哭だ。

「ど、どうした。」

「ぼ、ぼくも父が・・・・・・・。」

おいおい、お前は演助なんだから、過去を振り返る必要はないのだよ。いま大事なのはトシの気持ちであって、お前ではないのだ。お前が稽古に入り込んでくれてるのは、それはそれでうれしい。が、演助はあくまで冷静でいてくれないとオレまで涙が出てくるではないか。気がつくと僕もポロポロ泣いていた。 その日は結局、トシではなく伊東君の話をみんなで聞いてあげて稽古は終わった。みんな優しい奴だった。この頃のみんなはとてもヘンで。告白癖がみんなの間に蔓延していて、毎日が自分の秘密自慢大会と化していた。「実はオナニーしたことないんです」、とか「にわとりとやったことあるんです」とか、なんだかこれでいいのかと思うような告白もたくさんあった。それにしてもかなりヘンな謎の人間たちを乗せ僕たちの船は着実に進んでいく。本番まであと一週間。Fとノブ子はチケットの伸びが今一つなので、日々東奔西走していた。

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