bo-bo-記 rec.0089 00.12.09



エンゲキ=[mne.george]のころ(16)」
  


 衣装のニャンが選んできた洋服が稽古場に運ばれる。今日から通し稽古だ。本番と同じ場所「X」にて、衣装も着けて行う。今からある程度衣装を着てやらないと、本番の時衣装だけが浮き上がってしまうことがあるのだ。ニャンとは初めて一緒にやる作品なので、彼女の選ぶ服がどんなものか皆目見当がつかない。彼女が稽古場に来る度に、「なぁ、衣装どんな感じにするんでしゃろか?」と、不安そうに聞く僕に。「任せておきなさい、悪いようにはしないから。」とおっしゃっる。「任せろと言われても、不安は消えません。」としつこく言うと。「男は黙ってエド・ハリス」と今度は訳の分からないことを言う。それでも言うだけのことはあって。いつも黙ってジッーと稽古を見ていた彼女が選んだ服は、いい意味でこちらの予想を裏切ってくれて、僕は満足だった。このとき初めて、「任せろ。」と言う人には、キチンと全部任せた方がうまくいく、と言うことを学ばせてもらった。ニャンによって、疑り深い僕の性格は少しだけ矯正させられたのである。感謝、感謝である。

さて、初めての通し稽古だ。今日はFもノブ子も来ている。初めての通し稽古は全然うまくいかないものだが。ある程度本番に向けての物差しにはなる。

「今から通し稽古をしますが。決して上手くやろうとしないように。君たちは下手くそです。だから、背伸びしないでそのままでやりましょう。スタッフが見ているからと言って力を入れないように。そのかわり丁寧にやりましょう。その気持ちになるまで台詞は決して吐かないこと。何時間かかってもいいです。見ているこちらが退屈してもいいです。とにかく、丁寧に行きましょう。今日はそれでお願いします。それと、今日から台本は没収します。もう台詞も入ったし、台詞の勉強はたくさんしたし。あとは存在することだけです。ソコに人が居るかどうか。それってはどうゆうことなのか。・・・考えて下さい。台本は演助の伊東君に渡して下さい。では始めましょう。」

初めての通し稽古は三時間もかかってしまった。正味一時間の芝居が三時間だ。それでも役者陣は丁寧に気持ちを大事にして演じてくれた。うん、大丈夫だ。僕はある程度の自信を持った。役者陣が帰った後、Fとノブ子と僕の三人でなんとなくミーティングになった。

「ちょっと、芝居クサイんじゃないんですか。」
「役者の気持ちがまだまだですよ。」
「もっと表現にしていかないと。」
「話がよくわからないんじゃないか。」
「選曲をもっと考えた方がいい。」
「やっても意味がないのでは。」

等々。 いろいろ言われた。でも、この日僕がとても気になったことはFが発した。

「芝居の着下点はドコにするんですか。」

この一言だった。

「今回の芝居の着下点はその日まで分からないと思う。」

「え、どうゆうことですか。それじゃあ船はどこに向かって走るんですか。」

「なんだろう。本番の日、芝居が始まって終わったときに立っているトコロが着下点になると思う。」

「それだと、ソノ場所がバラバラになる危険性がありませんか。」

「大丈夫。なにひとつ確証はないけど。大丈夫。」

僕は確信を持ってそう言った。もちろんFの言うことは、よくわかっていた。彼はみんなで同じ意識の下、船を港に入れたいのだ。僕も今まではそうだった。でも今回、Fやノブ子、そしてみんなと出会って考え方が変わった。こいつらとならバラバラにはならない。行けるところまで行ってみたい。そこが海の上で、たとえ難破したとしても、それもいいではないか。一度でいいから目的地を決めずに航海したかった。だからこそ台本も思い切って没収したのだ。もう僕たちは地図を捨ててしまった。あとはその日の風に聞いてくれ。芝居なんて、たかだか現実逃避している人間たちが創り出す錯覚に過ぎない。どうせ見るなら大いなる錯覚を見たいではないか。 納得出来ないのか、Fはしきりにアゴをさすっている。ノブ子は愛煙のジタンに火を点ける。僕は今日の通 しのダメ出しの整理を頭の中で始めていた。

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