bo-bo-記 rec.0090 00.12.10



エンゲキ=[mne.george]のころ(17)」
  

 「着下点に関してはひとまず置いておきます。でも、もう少し・・・こう・・なにか、見ていて揺さぶられるものが欲しいですね。」

ミーティングの最後にFに言われた。わかっていた。この芝居には衝動性が足りないのだ。僕はこの芝居をどうしても演劇ではなくエンゲキにしたかった。《アイとサイセイのエンゲキ》。これがFやノブ子が考えたキャッチ・コピーだ。そのためにはリアルな衝動的な暴力が《アイとサイセイ》に向かうのではないのか。人の持つ暴力性はその人間の人格をも破壊する。これをうまく表現にしていかないとツマラナイモノになってしまうし、着下点もバラバラになってしまう恐れがある。 次の日の稽古のとき。僕はまずアメリカを呼び、ナイフを彼の喉元に突き付けて台詞を喋らせてみた。簡単なことでそれまで活字だった台詞が言葉になった。過剰な感情が見ていて面 白い。今回はこれぐらいの表現にして行かないと面白くない。柔軟体操が終わった本石君と武蔵野君を呼び付けた。

「今日の稽古は二人ともお互い憎しみを持ってやってくれる。お互いどこかで、殺してやる、って思ってるの。理由はそれぞれ考えていいから。でも、きっとこういうことって理由なんかないんだよね。人が人を憎むのって、きっとものすごく動物的なことだから。」

稽古が始まった。二人の芝居が見違えるように生き生きして来た。今まで埋まっていなかった《間》も憎しみで埋まってきた。背の高い本石のストレートな野蛮な暴力性と背の低い武蔵野の屈折した狂気を孕んだ暴力性。おもしろくなってきた。見ているこちらもワクワクしてくる。つられて事情を知らないほかの役者も、知らず知らずのうちにいい緊張感を出してくる。 休憩に入り、僕は再び二人を呼んだ。

「もし、衝動的に殴りたくなったら殴り掛かっていいからね。でもお互い顔だけは避けるように。」

二人は既に目を合わさない。僕はトシを呼び、稽古場の隅の方に連れて行った。

「この芝居で本石と武蔵野が喧嘩を始めたら、お前の役はどういう行動に出ると思う。」

「僕はここの店員の設定ですから。お客同士の喧嘩は止めます。」

「不正解。」

「正解は何ですか。」

「稽古で掴め。」

稽古が再開した。本石君と武蔵野君はさっきよりも、もうひとつ高い緊張感で稽古場の空気を支配している。それまで二人が吐いていた台詞は何だったのかと思うぐらい。言葉に魂が入り始めた。喋り倒している武蔵野の汗が本石の顔に飛んだ、思わず唾をはきかえす本石。二人の間の空気がグニャリと捩れた。椅子を蹴飛ばす武蔵野。その椅子が本石の足をかすめ静岡にあたった。いつもとは違う稽古に不安な顔のアンナ。本石の平手が武蔵野にあたった。じっとしている武蔵野。本石の平手がまた飛ぶ、何度も飛ぶ。脳のストッパーが壊れたのか殴ることをやめない本石。武蔵野の顔からは鼻血が出てる。武蔵野の視線がさっき使ったナイフに注がれた。まずい、止めるか。そう思ったとき。

「ウヲー!!!」

いきなりトシが叫びだした。本石を殴り、武蔵野を殴り、静岡を殴る。殴るというより暴れている。涙を流しながら、ただ暴れている。とめろ!そう言って、演助の伊東を見ると。伊東も泣いているボロボロボロボロ泣いている。なんだ、どうしたんだ。何かがみんなの中で覚醒したかのようだ。慌てて止めに入るがみんなが暴れている。泣きながら暴れている。オラはいとも簡単に弾き飛ばされ、ひっくりかえった。メガネが床に転がり。ストップ・ウォッチが壁に飛んだ。

「みんなでトシをとめろ!!!!!」

全員でトシの身体にしがみつき、怪獣ゴジラは攻撃をやめた。 気がつくとオラも泣いていた。訳も分からず泣いていた。 転がったメガネは半分割れていた。メガネ屋に持って行けば修理代に7千円はかかるだろう。制作費で払ってくれないかなぁ。何でもよかった。何か違うことを考えないと、僕も暴れだしそうな。そんな感じだった。

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